おなかのヘルニアとは?
「ヘルニア」という言葉から、腰のヘルニアを想像される方が多いと思いますが、「おなかのヘルニア」いわゆる「脱腸」も、わが国では年間15万件以上の手術が行われている非常に重要な病気です。当院では、腹腔鏡下手術を中心に、年間250~300件のおなかのヘルニアの手術を行っています。この「おなかのヘルニア」について、くわしくお話しします。
解説医師紹介
おなかのヘルニアセンターセンター長
外科・消化器外科 科長
小林 敏樹
日本内視鏡外科学会技術認定医(消化器・一般外科:ヘルニア)、日本ヘルニア学会評議員、外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医
01. おなかのヘルニアとは?
ヘルニアとは、臓器などが、本来あるべき場所から「脱出・突出」した状態を表す言葉です。
おなかのヘルニアには、主にまたの付け根が膨らむそけいヘルニア、へそが膨らむ臍(さい)ヘルニア、手術後の傷が膨らむ腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニア等の種類があります。
いずれのヘルニアも、おなかの壁が弱くなって穴ができ、臓器が脱出する状態です。穴がいったんできてしまうと、自然によくなることや、薬でよくなることはなく、外科手術による閉鎖が唯一の治療法となります。
おなかのヘルニアには、主にまたの付け根が膨らむそけいヘルニア、へそが膨らむ臍(さい)ヘルニア、手術後の傷が膨らむ腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニア等の種類があります。
いずれのヘルニアも、おなかの壁が弱くなって穴ができ、臓器が脱出する状態です。穴がいったんできてしまうと、自然によくなることや、薬でよくなることはなく、外科手術による閉鎖が唯一の治療法となります。
放置すると、どうなるの?
痛くないからといって放置すると、時間がたつにつれて、ふくらみが大きくなり、日常生活に支障をきたすようになります。
時に痛みを生じたり、歩行困難や排尿障害・排便障害の一因にもなりえます。
また、ヘルニアの袋(ヘルニア嚢)に飛び出した臓器が、おなかの中に戻ることができなくなる「嵌頓(かんとん)」という危険な状態になることもあります。
時に痛みを生じたり、歩行困難や排尿障害・排便障害の一因にもなりえます。
また、ヘルニアの袋(ヘルニア嚢)に飛び出した臓器が、おなかの中に戻ることができなくなる「嵌頓(かんとん)」という危険な状態になることもあります。
実際にあった、放置しひどくなってしまった症例
嵌頓(かんとん)・絞扼(こうやく)とは?
おなかのなかの臓器がヘルニアの袋にはまりこんで戻らなくなることを「嵌頓」と呼びます。
ヘルニア嵌頓により、腸閉塞(腸がつまる)になったり、腸がヘルニアの入り口(ヘルニア門)に非常にきつく挟まることで腸への血流が絶たれる、絞扼と呼ばれる状態が生じることがあります。
絞扼が生じると、約6時間で挟まった部分の腸が壊死(えし)を起こします。
壊死が生じると、最悪の場合、腸が破裂し、それにより腹膜炎(おなかのなかに感染と炎症を起こした状態)となってショック状態となり、治療が遅れた場合には、死に至ることもあります。
ヘルニア嵌頓により、腸閉塞(腸がつまる)になったり、腸がヘルニアの入り口(ヘルニア門)に非常にきつく挟まることで腸への血流が絶たれる、絞扼と呼ばれる状態が生じることがあります。
絞扼が生じると、約6時間で挟まった部分の腸が壊死(えし)を起こします。
壊死が生じると、最悪の場合、腸が破裂し、それにより腹膜炎(おなかのなかに感染と炎症を起こした状態)となってショック状態となり、治療が遅れた場合には、死に至ることもあります。
嵌頓(かんとん)状態の解説
02. そけいヘルニアとは?
そけいヘルニア(鼡径部ヘルニア)は、左右の太腿の付け根部分の腹壁に生じた欠損部(あな)を通じておなかのなかの臓器が腹膜をかぶったまま飛び出す状態のことです。
立った状態やおなかに力を入れた状態で診察すると、鼡径部や陰嚢がポッコリ膨らんで見えます。
飛び出した腹腔内容物がおなかの中に戻ると、表面上は平らになり治ったように見えますが、飛び出した部分には腹膜の通り道ができてしまっているので、自然に治ることはありません。
立った状態やおなかに力を入れた状態で診察すると、鼡径部や陰嚢がポッコリ膨らんで見えます。
飛び出した腹腔内容物がおなかの中に戻ると、表面上は平らになり治ったように見えますが、飛び出した部分には腹膜の通り道ができてしまっているので、自然に治ることはありません。
そけいヘルニアの原因は?
鼡径部は生まれる前に、おなかの中から、睾丸や、子宮をけん引する靭帯(子宮円靭帯)が通過するため一度筋肉(筋膜)に穴が開きます。
この穴の部分が生まれつき、きれいに閉じていないとヘルニアになります(小児のそけいヘルニア=先天性)。
成人になって、筋肉が様々な原因で弱くなったり、腹圧が上がって筋肉がおなかを支えきれなくなるとヘルニアを起こします(生活習慣や加齢によるもの=後天性)。両方の原因が絡み合って起こる場合もあります。
おなかに力を入れる機会や、立っていることが多い人(肉体労働者、声楽家、吹奏楽器の演奏者、便秘症の人、前立腺肥大症の人、咳が多い人など)に多く、 肥満、 妊娠などによって腹圧が上がることも誘因とされています。
この穴の部分が生まれつき、きれいに閉じていないとヘルニアになります(小児のそけいヘルニア=先天性)。
成人になって、筋肉が様々な原因で弱くなったり、腹圧が上がって筋肉がおなかを支えきれなくなるとヘルニアを起こします(生活習慣や加齢によるもの=後天性)。両方の原因が絡み合って起こる場合もあります。
おなかに力を入れる機会や、立っていることが多い人(肉体労働者、声楽家、吹奏楽器の演奏者、便秘症の人、前立腺肥大症の人、咳が多い人など)に多く、 肥満、 妊娠などによって腹圧が上がることも誘因とされています。
03. そけいヘルニアの手術方法
手術方法には大きく分けて2つの方法があります。鼡径部切開手術と腹腔鏡手術です。
さらにそれぞれ、組織縫合法とメッシュ(人工物)修復法に分けられます。
当センターでは、患者さんの状態に応じて最適な手術方法を選択しています。
さらにそれぞれ、組織縫合法とメッシュ(人工物)修復法に分けられます。
当センターでは、患者さんの状態に応じて最適な手術方法を選択しています。
腹腔鏡下そけいヘルニア修復術について
腹腔鏡手術の最大の特徴は、鼡径部切開法に比べて傷が小さいので、術後の疼痛が軽減され早期の社会復帰が可能となることです。
また腹腔鏡下鼡径ヘルニア修復術(TAPP法/タップ法)は、おなかの中から鼡径部の観察ができるため、症状のない側のヘルニアの同時診断・治療が可能となります。
おなかの中の観察もできるため、併存他疾患の診断・治療が可能となることがあります(胆嚢結石症の同時治療等)。
以上のような理由から、現在当センターでは、腹腔鏡下鼡径ヘルニア修復術(TAPP法/タップ法)を、そけいヘルニア治療法の第一選択としています。
内視鏡外科学会ヘルニア技術認定医の資格を有した私が、責任をもって治療を担当いたします。
また腹腔鏡下鼡径ヘルニア修復術(TAPP法/タップ法)は、おなかの中から鼡径部の観察ができるため、症状のない側のヘルニアの同時診断・治療が可能となります。
おなかの中の観察もできるため、併存他疾患の診断・治療が可能となることがあります(胆嚢結石症の同時治療等)。
以上のような理由から、現在当センターでは、腹腔鏡下鼡径ヘルニア修復術(TAPP法/タップ法)を、そけいヘルニア治療法の第一選択としています。
内視鏡外科学会ヘルニア技術認定医の資格を有した私が、責任をもって治療を担当いたします。
当センターオリジナルの術式 「SISSTAPP(シスタップ)」(Single Incision and Single Surgeon TAPP)
TAPP法のさらなる低侵襲化・手術の質の向上を目指して、2018年3月から、SISSTAPPというオリジナル術式を開発しました。
通常のTAPP法では3か所の創(きず)を作りますが、SISSTAPPでは、臍のくぼみに合わせた一つの創と太さ2㎜の注射針のような道具を用いて手術を行いますので、体壁破壊が減少し、より患者さんに優しい手術となっています。
またロボットアームを用いて内視鏡を操作することにより、安定した術野となり、より質の高い手術が可能になります。
通常のTAPP法では3か所の創(きず)を作りますが、SISSTAPPでは、臍のくぼみに合わせた一つの創と太さ2㎜の注射針のような道具を用いて手術を行いますので、体壁破壊が減少し、より患者さんに優しい手術となっています。
またロボットアームを用いて内視鏡を操作することにより、安定した術野となり、より質の高い手術が可能になります。
鼡径部切開手術と腹腔鏡手術の創の違い
SISSTAPP
04. 臍(さい)ヘルニアと腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニアって何?
臍ヘルニア
へそ(臍部)周囲に生じます。多くの新生児では、へその緒(臍帯)の血管の開口部が完全に閉じていないために小さな臍ヘルニアがみられますが、成長していくうちに自然に閉鎖していきます。
しかし成人になって、肥満・妊娠・腹部の過剰な体液(腹水)等のために腹圧が上がった場合、臍部に緊張がかかり、閉鎖した穴が再び開いてしまって、臍ヘルニアが生じます。
いったん穴があいてしまうと、自然に閉じることはなく、手術が唯一の治療方法となります。
しかし成人になって、肥満・妊娠・腹部の過剰な体液(腹水)等のために腹圧が上がった場合、臍部に緊張がかかり、閉鎖した穴が再び開いてしまって、臍ヘルニアが生じます。
いったん穴があいてしまうと、自然に閉じることはなく、手術が唯一の治療方法となります。
腹壁瘢痕ヘルニア
手術でおなかを切った傷口(手術創)は、手術の終わりにしっかりと縫い合わせます。
しかし、肥満、喫煙、創感染(傷が膿むこと)、栄養状態不良、併存疾患や内服薬の影響などにより、傷がうまく治らない場合があります。
その結果として筋肉に隙間ができてしまい、腹壁瘢痕ヘルニアが発生します。
腹部手術後のおよそ10%に発生するといわれています。
発生する時期は様々で、手術を受けて数ヶ月で発症することもあれば、数年後に発症する場合もあります。やはり、治療方法は手術のみです。
しかし、肥満、喫煙、創感染(傷が膿むこと)、栄養状態不良、併存疾患や内服薬の影響などにより、傷がうまく治らない場合があります。
その結果として筋肉に隙間ができてしまい、腹壁瘢痕ヘルニアが発生します。
腹部手術後のおよそ10%に発生するといわれています。
発生する時期は様々で、手術を受けて数ヶ月で発症することもあれば、数年後に発症する場合もあります。やはり、治療方法は手術のみです。
臍へルニア・腹壁瘢痕ヘルニアの手術
手術方法には大きく分けて2つの方法があります。
開腹手術と腹腔鏡手術です。
さらにそれぞれ、組織縫合法とメッシュ(人工物)修復法に分けられますが、組織縫合法では再発率が高いため、メッシュ修復法が治療法の主流となっています。
再発率・合併症率の低さから、当センターでは、腹腔鏡下臍ヘルニア・腹壁瘢痕ヘルニア修復術(IPOM+法/アイポムプラス法)を治療法の第一選択としています。
開腹手術と腹腔鏡手術です。
さらにそれぞれ、組織縫合法とメッシュ(人工物)修復法に分けられますが、組織縫合法では再発率が高いため、メッシュ修復法が治療法の主流となっています。
再発率・合併症率の低さから、当センターでは、腹腔鏡下臍ヘルニア・腹壁瘢痕ヘルニア修復術(IPOM+法/アイポムプラス法)を治療法の第一選択としています。
お悩みの方は、ご相談ください。
〈広報誌「体温計」第157号より〉