腎癌の最近の手術方法
腎臓にできる癌には主に腎細胞癌と腎盂癌があります。「腎臓癌」「腎癌」といえば、一般に腎細胞癌のことです。腎臓の中で、尿を作る腎実質という部分に生じる悪性腫瘍です。進行すると近くの臓器(血管、筋肉、副腎、肝臓など)に直接浸潤したり、リンパ節や他の臓器に転移します。転移する臓器は肺とリンパ節が多く、肝臓、骨、脳などに転移することもあります。
腎細胞癌が見つかった場合、まだ腎臓外に転移していない早期癌の状態であれば、手術で体内から取り去ることが原則です。腎臓は左右に2つあるため、癌のある方の腎臓を丸ごと切除する「腎摘除術」が標準治療とされてきました。ところが、腎摘除術から長期間経つと慢性腎臓病になりやすく、心血管系の合併症(心筋梗塞や脳梗塞など)が起こりやすくなることが報告されたことから、癌だけを切除して正常な腎臓をできるだけ残す「部分切除術」が最近勧められるようになり、小さな腎細胞癌に対しての標準治療になりました。適切な部分切除術を行えば、腎摘除術と比べて癌の再発率に差がありません。すでに片方しかない腎臓に癌ができた場合や、左右両方の腎臓に多数の癌がある場合には、両側の腎摘除術による透析を避けるため、部分切除術が特に勧められます。
画像説明文
画像説明文
部分切除術では、腎臓の血流を一時的に止めている間に癌を切り取り、切った断面を止血してから血流を再開します。血流を止めると腎臓の細胞が弱り、長時間だと回復しなくなるため、血流を止めていられる時間に制限があります。また、切り取った部分からの再出血や尿漏れなど、腎摘除術にはない合併症が発生する危険性があります。
そのため、部分切除術の対象となるのは、比較的小さい癌です(一般に4cm以下)。開腹(開放)手術、腹腔鏡手術のいずれかで手術します。腹腔鏡手術の方が傷が小さく出血が少ないため、手術後の痛みが少ない、回復が早いという利点があるのですが、鉗子を動かす角度が自由にならない腹腔鏡手術では制限時間内に綺麗に切ったり縫ったりすることが難しいことから、サイズの大きな癌、腎臓の奥深くにある癌、腎臓の根本にある太い血管に近接する癌に対する部分切除術は難しく、合併症のリスクも高くなります。そのため以前までは、腎臓の表面からこぶのように突き出している比較的小さな癌のみが腹腔鏡での腎部分切除術の対象とされていました。2016年に手術支援ロボットを用いた腹腔鏡手術が保険適応となり、腹腔鏡での傷の小ささ、出血の少なさという利点のまま、ロボットによる精密な操作が可能となったことで、部分切除術の対象となる癌の範囲が拡大しました。
癌を切除した後の断面を止血するのに、断面に針糸をかけ縫い縮めて圧力をかけることで止血する方法と、断面を特殊な電気メスで念入りに凝固止血する方法とがあり、当院では後者の方法を行っています。前者の止血方法に比べて、切除断面や尿路から再出血するリスクが低く、腎臓の正常組織の喪失が少ないという利点があります。
そのため、部分切除術の対象となるのは、比較的小さい癌です(一般に4cm以下)。開腹(開放)手術、腹腔鏡手術のいずれかで手術します。腹腔鏡手術の方が傷が小さく出血が少ないため、手術後の痛みが少ない、回復が早いという利点があるのですが、鉗子を動かす角度が自由にならない腹腔鏡手術では制限時間内に綺麗に切ったり縫ったりすることが難しいことから、サイズの大きな癌、腎臓の奥深くにある癌、腎臓の根本にある太い血管に近接する癌に対する部分切除術は難しく、合併症のリスクも高くなります。そのため以前までは、腎臓の表面からこぶのように突き出している比較的小さな癌のみが腹腔鏡での腎部分切除術の対象とされていました。2016年に手術支援ロボットを用いた腹腔鏡手術が保険適応となり、腹腔鏡での傷の小ささ、出血の少なさという利点のまま、ロボットによる精密な操作が可能となったことで、部分切除術の対象となる癌の範囲が拡大しました。
癌を切除した後の断面を止血するのに、断面に針糸をかけ縫い縮めて圧力をかけることで止血する方法と、断面を特殊な電気メスで念入りに凝固止血する方法とがあり、当院では後者の方法を行っています。前者の止血方法に比べて、切除断面や尿路から再出血するリスクが低く、腎臓の正常組織の喪失が少ないという利点があります。
部分切除術が安全にできるのであれば迷わずお勧めするのですが、サイズの大きな癌、腎臓の奥深くにある癌や、腎臓の根本にある太い血管に近接する癌などは、癌のある腎臓をまるごと切除する腎摘除術の方が安全な場合がしばしばあります。腎摘除術だと、部分切除と較べて手術時間が短く、手術直後の合併症もほとんどありません。また、腎周囲の臓器に食い込んでいないかぎり、7cmくらいまでなら腹腔鏡手術で腎摘除術を行うことができます。腎臓が片方なくなっても、もう片方がそれなりに元気に働いていれば、日常生活にほとんど影響がありません。ただし、前述のように、動脈硬化が進行しやすくなり、将来の血栓症、糖尿病などの遠因となるとされています。
誰しも加齢とともに、腎臓の機能が衰え、老廃物や余分な水分の処理能力が年々落ちていきます。腎機能の低下が高度となれば、だるさや疲れやすさ、食欲低下をきたして生活の質を落としてしまいます(慢性腎臓病)。腎機能の低下がさらに進むと(一般にGFR10以下)、意識障害、不整脈、心不全などをきたし(腎不全、尿毒症)、透析を導入しない限り寿命を短縮させてしまう場合があります。腎臓が2つある方でも、加齢とともにある程度の腎機能低下は避けられないのですが、腎臓を片方切除することで腎機能が将来危険なレベルまで低下するリスクが増します。元々の腎機能が悪かった場合、残った腎臓に負担がかかった場合(糖尿病、高血圧、結石、脱水などが主な原因になります)、通常の経過より急速に腎機能が低下することがあります。現在の腎機能と切除しなくてはいけない範囲から、部分切除術と腎摘除術のそれぞれでどの程度の腎機能が残せるかを予想することも、どちらを選択するかの要素となります。
ロボットを含め腹腔鏡での手術には、炭酸ガスを体内に吹き込んで膨らませる「気腹」という操作が不可欠であり、全身麻酔をかけての気腹が不可能な重症呼吸器疾患の方には開腹手術が勧められることがあります。また、一度手術を受けている部位と同じ部位の腹腔鏡手術は癒着のため困難なことがしばしばあり、開腹手術が勧められることが多いです。
血液をサラサラにする抗凝固剤、抗血小板剤を内服している方は、手術前後に中断するのが一般的です。それらが安全に中止できない状況であれば、部分切除術は勧められませんし、腎摘除術も危険を伴います。リスクを了承して手術を行う以外に、手術以外の局所治療法(凍結療法、定位放射線治療など)、抗癌剤治療、無治療経過観察、なども選択肢となります。
このように、それぞれの手術に一長一短があるため、癌の大きさや場所、手術前の腎機能、糖尿病など他の病気や血液を固まりにくくする薬の内服の有無などから予想されるリスクを考えながら、腎摘除術か部分切除術か、そしてロボット支援での腹腔鏡手術か開腹手術かを患者さんと相談しながら決めていくことになります。総合的に判断し、手術以外の治療方法や無治療経過観察をお勧めする場合もあります。
ロボットを含め腹腔鏡での手術には、炭酸ガスを体内に吹き込んで膨らませる「気腹」という操作が不可欠であり、全身麻酔をかけての気腹が不可能な重症呼吸器疾患の方には開腹手術が勧められることがあります。また、一度手術を受けている部位と同じ部位の腹腔鏡手術は癒着のため困難なことがしばしばあり、開腹手術が勧められることが多いです。
血液をサラサラにする抗凝固剤、抗血小板剤を内服している方は、手術前後に中断するのが一般的です。それらが安全に中止できない状況であれば、部分切除術は勧められませんし、腎摘除術も危険を伴います。リスクを了承して手術を行う以外に、手術以外の局所治療法(凍結療法、定位放射線治療など)、抗癌剤治療、無治療経過観察、なども選択肢となります。
このように、それぞれの手術に一長一短があるため、癌の大きさや場所、手術前の腎機能、糖尿病など他の病気や血液を固まりにくくする薬の内服の有無などから予想されるリスクを考えながら、腎摘除術か部分切除術か、そしてロボット支援での腹腔鏡手術か開腹手術かを患者さんと相談しながら決めていくことになります。総合的に判断し、手術以外の治療方法や無治療経過観察をお勧めする場合もあります。